計算違い1
早瀬ユウカの苛立ち==================
──全く、ミレニアムの生徒たちはみんな優秀である代償なのか知らないけれども自由すぎるのよ!
優秀なのに 奇抜なアイデアのゴリ押しで予算増額を目論むたくさんの部活
優秀なのに せめて器物や建造物の被害を最小限にしてと頼んでも尚損害賠償を増やすC&C
優秀なのに 利己的な理由で他人の情報を勝手に盗み見たり、データを改竄したり、ハッキング能力を悪用して悪戯するヴェリタス
優秀なのに ロマンだの実験だの言って必要のない機能を組み込み混乱を招いてばかりのエンジニア部
(それでレッドウィンターとの外交問題にまで発展しかけたし…)
優秀なのに 学園外へ逃げギャンブルにハマった挙句遊び代欲しさに証券を大量に無断発行した問題児のコユキ
(あれでセミナーどころかミレニアム全体の経営がガタガタになるところだった…)
優秀なのに 色々な事をダシにして私をからかい調子を狂わせるノア
優秀なのに 生徒会長という立場を利用してとんでもない額を横領の上、秘密の都市を建設した挙句アリスちゃんを誘拐したり方舟の一件以外行方をくらませたリオ会長
そして何より!やれば出来るはずなのに毎回私に甘えて好き放題してばかりいるゲーム開発部!(特にモモイ!)
みーんな私を困らせてばかり!
…って思いはするけれど、なんだかんだ言っても私にとって彼女たちは大好きで大切な存在だ
例えるなら“手のかかる子程可愛い”みたいな?そんな感じだから、大変だし困ることも多いけど面倒を見てあげたり話したりするのは楽しいと感じているの
何より、先生の面倒を見るということもそれに負けない幸せで…
私は恵まれているんだと実感する
でもそんな私の幸せは
私自身の過ちによって
ある日を境に崩壊し始めた──
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ユウカ「こらー!モーモーイーッ!何よこの廊下に置いてあったジュース入りの段ボールとお菓子の詰め合わせは!部室内に置くのならまだしも、あんなとこに置いちゃ駄目でしょう!部屋に入らないなら没収するわよ!」
モモイ「げぇっ!?ユウカ!?い、いやこれは…その…ほら、アレだよ!なんか一定量の水を入れるにはコップが小さいと全部入り切らないじゃん?だから溢れないようにするならコップを大きいものにしなきゃいけない的な話あるでしょ?だ、だからこのお菓子袋を入れたければ新しく広い部室を…」
「何言ってんの!自分たちが整理や掃除をサボったからこうなってるんでしょ!それを棚に上げてちゃっかり広い部室を要求するなんて…図々しいにも程があるとは思わないのモモイ!?」
「うぐぅバレた…で、でもそう言うってことは知ってるでしょ!?私たちの部室がいかに混沌に満ちているか!今更掃除なんか出来ないよーだ!」
「あーもう!ごちゃごちゃ言わないの!特別に私も手伝ってあげるから、今日はみんなで部室を綺麗にするわよ!」
ミドリ「えぇっ!?そんな…ゼリーズの新しいクッションが入荷するって聞いたから今日はゲーセン行こうと思ってたのに…お姉ちゃんってば!」
「ちょっ、私のせいなの!?」
「だってそうでしょ!私はやめとこうよって言ったのに無視して話題のお菓子屋さんでしこたまお菓子やジュース買ってきたのは誰!?」
「あんたたち…喧嘩する暇あるなら早く手を動かしなさい…?」ゴゴゴゴゴ
ユズ「ふ、2人とも…喧嘩しないで…わ、私も頑張ってやるから…!ほら、アリスちゃんもお片付けしよ?お掃除クエストって言ったら分かりやすいかな?」
[アリス は お掃除クエスト を引き受けた!]
アリス「依頼を受注しました!…ユウカからのクリア報酬はなんでしょう?」
「悪いけどそんなものないわよ。」
「ひーん!薄々感じてはいました!」
私はゲーム開発部のみんなと部室を掃除することにした。何度も来て思考が麻痺していたのかもしれないけれど…モモイの言う通り混沌とした部室ね…もし私が居なかったらとんでも無いことになってたかもしれない
乱雑に放ってある雑誌類、床に散乱したゴミ、効率的という概念を忘れた適当な置き方をしているラックの物、パスタのように絡まったテレビ周りのケーブル…頭を抱えそうになりながらも、それぞれに分担させテキパキと綺麗にしていく
モモイは時折ぶつくさ言いながらもゴミを袋に詰めていき、ミドリはケーブルや雑誌を手早く纏めて、ユズはロッカーの中やラック整理を担当。そしてアリスちゃんは重い家具を動かしたり、まとめた雑誌やゴミ袋を置いていくという力仕事をこなしていった。私は指示しながら少し手伝っただけで、大体はほぼ4人の働きによりあっという間に綺麗になった
「はぁ…ちゃんと綺麗に出来たわね。」
「ふっふーん!私にかかればこれくらい余裕余裕!」
「モーモーイー?」ゴゴゴゴゴ
「ひっ!?」
「そんな事言うなら最初っからみんなとこまめに掃除しなさいっ!」
「もう、調子乗るからだよお姉ちゃん…掃除で疲れちゃったしゲーセンは明日にして今日は普通にゲームしよっかな。」
「あ、じゃあさ!ユウカも一緒にやろ!こないだ買った新作2Dアクションゲームあるから触ってみてよ!」
「い、いや流石にそんな暇は…ちょっとあるわね…」
この日の私は、珍しく面倒ごとや作業すべき案件などがあまり無かったので少しだけ余裕があった。ノアもそこまで忙しい感じじゃ無かったから軽くこっちに寄った時にあの段ボールとお菓子袋を見つけて…という経緯で掃除を始めたという感じだった
「えっ、若干ダメ元だったけどほんとに時間あるの?やったー!じゃあ早速昨日買ったお菓子とジュース開けてみんなでやろ!一回死んだら&コースクリアしたら交代って感じに!」
「全く、今日は時間があるから付き合ってあげるけど、毎日は無理よ?」
「はい!つまりユウカからの報酬はこのゲームを一緒にやる時間、ですね!」
「もう…とはいえ1日フリーってわけじゃないんだから、ユズもミドリも早く来なさい。私の計算力を駆使した華麗なプレイングを見せてあげる!」
彼女たちといると、困ることこそあれどなんだか楽しい…その感情により珍しく少しはしゃぐ姿をみんなに見せながら、私はゲームを楽しむことにした
みんなは掃除を始めるきっかけとなったお菓子とジュースを引っ張り出し、私も含めて5人で飲み食いしながら幸せな時を過ごす…
──その時が悲劇の幕開けだったなんて、当時の私には知る由も無かった…
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数週間後の昼
ノア「あらユウカちゃん、お菓子片手だなんて珍しいですね?」
ユウカ「え?ああこれ?この間モモイ達の部室を掃除した後ちょっとだけゲームしたんだけど、その時食べたお菓子とかジュースが口にあったみたいで…」
「ふふっ♡お砂糖ばっかり摂ってはいけませんよ?ちゃんとご飯も食べれるよう調整しているか確認しますからね♪」
「モモイじゃないんだからそんなことしないわよ!全く…明日先生のお手伝い行くから今日中にやれるだけやりたいの!集中させて!」
「はいはい♡では私は、新素材開発部の新しい発明とやらを確認しなければいけないので、一旦失礼しますね♪」
そう言ってセミナー室から立ち去るノアを見送る
私はエンジニア部が無駄なドリルを設置したコーヒーメーカーへ足を進めると、新しくコーヒーを淹れ直してから砂糖を混ぜて飲んでいく…同じお菓子屋で売っていたこのスティックシュガーもかなり気に入っており、最早愛用品になりつつあったけれども…
一方で、最近少しイライラしやすくなっているのがなんとなく気になっていた。ここの所私を悩ませるような騒動や事件は起きていないし、せいぜい小さな喧嘩沙汰が起きてる程度なのでミレニアムは全体で見てもかなり平和なはず…けれどなんだか無性に苛つきが止まらず、頭を抱える回数が増えていた
多分普段から計算で頭を使ったり、問題児達の対応で神経を擦り減らしがちだった振り戻しが来ているのかもしれない。そして砂糖菓子を食べている時は落ち着くので、恐らく糖分不足もあるのかも…そういうわけで、最近はモモイに教えてもらったお菓子屋にて箱買いしたお菓子を片手に作業をこなすのが日課みたいになっていた
明日はシャーレ当番の日だけど、先生へイライラをぶつけないようにしないと…
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翌日、シャーレにて
ユウカ「…先生、なんですかこの領収書は。5000円以上の買い物をする時は一言下さいと散々言ってきましたよね?それなのに6000円のフィギュアを…」
“い、いやぁ、ちょうど値引きしてたからこの絶好の機会を逃すわけにはいかないと思ってつい…”
イラッ
「一度くらいなら大目に見れたかもしれませんが…同時に4個も無断で購入したというのはどういう了見ですか?」
“な、なんというか、こういう4つセットで揃えると完成!…ってのはどうしてもコンプしたくなって…”
イライラ
「あの、別に買うなって話をしてるわけじゃないんですよ。欲しいなら私に一度連絡をしてって話をしてるんです。その場でモモトークでも電話でもすればよかったじゃないですか。」
“で、でもユウカっていつも忙しいから…流石にこんな事で連絡するのは悪いかなって考えた上で…”
プツン
「──はぁ!?その程度の事で取られる時間なんて、たかが知れてるじゃないですかっ!そんな言い訳で無駄遣いを正当化しようとしないでください!」
“あう…ごめん…”
「そもそも私が暇かどうか伺うことぐらい出来ますよね!?あなた大人なんでしょう!?なのに事後報告もせず私がこうして領収書チェックする時までずーっと黙ったままとか、私を馬鹿にしてるんですか!?」
“い、いやそんなつもりじゃ…”
「この際だからハッキリ言いますけれども、ほんっとうにうんざりしているんですよ!ただでさえミレニアムを纏めるのに手一杯だって言うのに先生の面倒まで見てあげて…!それなのに先生は何っ回言っても無駄遣いを止めない!一言伝える努力もしない!領収書を少しでも纏めて私がやりやすく出来るような気配りさえこれっぽっちもしてくれないっ!!」
“その…ほんとにごめ…”
「謝るだけで全部済むと思ってるんですか!?自分の改善点を挙げてこれからは気をつける、みたいな言葉の一つくらい言ったらどうです!?あ゛ぁもうっ!」
私は机の側で目を伏せながら突っ立ってる先生にマグカップを投げつけた
“いたっ!?”
先生の腕に当たったマグカップは、床に落ちて砕けてしまう
「どいつもこいつも…私を追い詰めるのがそんなに楽しいの!?私が優しくしてればつけ上がって好き勝手してばっかりだし!私の迷惑の事も考えろよっ!」
“ほんっとうにごめんユウカ!次からもし欲しいと思う5000円以上のものがあったらちゃんと相談するから…!”
「そんなの、最初に決めた約束なんですから改めて言うまでもないでしょう!?先生は本当に無駄がお好きですよねっ!どこに行っても無駄な事をする奴ばかりだから嫌なのよ!もう帰りますっ!確定申告は自分でやるか他の人にでも頼んでください!」
“………分かった…”
「チッ…あ゛ぁーっ!なんなのよもうっ!いい加減にしてよぉ゛っ!」
私は綺麗に整えていた髪をぐしゃぐしゃ掻き乱しながら立ち上がり、キャスター付きデスクチェアを思い切り退かして床を滑らせながら当番時間途中にも関わらずミレニアムへ帰ろうとする…激昂して近くのゴミ箱を蹴り飛ばしつつ、ドアを開けてすぐにシャーレから立ち去った
本当にイラつく…先生なんか知らない。あのまま困ってしまえばいい。私に泣きついても知ったことか。どうせ先生には私以外にも頼りになる生徒が大勢いるんだから、ストレス溜めてまで手伝う義理なんかない…いつも困らせてばかりいるからこうなるんだと覚えてもらおう
ああ、頭が痛い
早く戻ってお菓子でリラックスしなきゃ
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“ユウカがあんなに怒ったところ、初めて見た…怖かった…”
でも私が悪いのは本当だ
いつもお世話になっているのに、一時の欲で彼女の堪忍袋を破裂させてしまったのだから
“あぁ…このカップ、ユウカのお気に入りだったのに…”
私に投げられたマグカップの破片を拾いながら呟く。彼女はこのカップを愛用していたから、もし同じものが見つかったら買い替えておこう
強く投げられ部屋の隅に転がって行ったデスクチェアを戻し、思いっきり凹んだゴミ箱を立てて中のゴミを入れ直す
…また今度お詫びしないと
そう思いながら私は領収書整理を始めた
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ユウカ「はぁ゛…イラつくイラつくイラつく…!優しくしてればつけ上がる奴らばかりで本当イラつく…!」
親指の爪を齧りながら呟き、ミレニアムへ帰ってきた
これからさっさとやる事済ませてお菓子食べて休もう…そう心に決めながら校内を歩いていると…
アリス「ユウカ!ちょうどいいところに現れてくれました!モモイが部費のことでお話したいと言ってます!」
「…ごめんアリスちゃん。今日はやる事がまだあるから、後日聞かせて。」
「で、ですが、ミドリとユズもその件でお話したいと言っていて…」
「だから後にしてって言ってるでしょ!聞こえなかった!?もう一度言ってあげるからちゃんと聞きなさい!?そんな話聞いてる暇なんか私には無いのよっ!」
「ひっ…!?」
「いつも問題起こしてばかりなあんた達の相手なんか正直したくない!遊びたいなら迷惑かからないところで勝手にやって!これ以上私に迷惑かけるなら、今度こそあそこから追い出すわよっ!?」
「そ、そんな…ユウカ…ごめんなさい、ごめんなさい…」
「いい!?もう二度とあんた達から部費の事について言ってこないで!この学校における部活存続の決定権は私にあるんだから、その気になれば取り潰すぐらい簡単に出来るんだってその脳みそに叩き込んでおきなさい!」
「う、うぅ…ぐすっ…わ、わかり、ました…もう、二度としません…」
「チッ…分かったなら早く行って。モモイには“一銭も増やさない”と伝えておくと良いわ。毎回毎回図々しく貴重なお金をせびって…恥を知りなさい。」
手で涙を拭いながらとぼとぼ歩いていくアリスを見送ることもせずに、セミナー室へ向かう足を再度進める
ただでさえイラついてるのに、これ以上ストレスを溜めないでよ
ノア「あらユウカちゃん。まだ当番時間ですけれど、忘れ物ですか?」
「違うわよ。先生がまた無駄遣いしてたからお説教して帰ってきたの。」
「…そうですか。」
「何?文句でもある?」
「いえ…では、私が代わりにお手伝いをしに行っても良いですか?」
「…それで自分の仕事が終われるのなら好きにすれば?行ってらっしゃい。」
「………」
ノアは私に悲しげな目を浮かべ、荷物をまとめて部屋から出て行った…何よあの目は。ノアの事まで腹が立ってくる…
いや、もう先生のことなんか考えないでおこう。ノアがあんな人を手伝いたいという物好きなら、好きにさせておけばいい。からかってくる厄介者が少しの時間だけでも居ないなら大助かり
コユキ「あの〜…ユウカせんぱい?」
…チッ
「何コユキ?早く今日の分終わらせたいから、話なら後にするかすぐに済ませてちょうだい。」
「ご、ごめんなさい!あの、もしかして今日機嫌が悪いのですか?」
「見て分からないの?…ああ分からないでしょうね!勝手にセミナー名義の債券を大量に発行して、よその学校のギャンブルに注ぎ込むような倫理観狂ったバカに察して欲しいと思った私がバカだったわ!コユキ!今日はもう話しかけないでくれる!?貴女の声を聞くと神経逆撫でされて仕方がないのよっ!1日でいいから声を出さないで!黙って作業でもしてなさいこの疫病神がッ!」
「ひぃっ…!?ぁ…ぅ…はぃ…その…わかり、まし…」
「今黙れっつったの聞こえなかった!?コードネームは白兎なのに耳が随分悪いみたいね!二度同じ事言わせんなッ!!黙って作業してろっ!!!」
「───」
忌々しいコユキは怒鳴り声を聞くと暫く放心したような顔をしていたが、ふっと涙を流すと泣きながらセミナー室から出て行った。作業しろって言ったのに理解してないのかしら?頭が悪いってレベルじゃないわね。今日はもう戻って来るなと思いながら、私は静かになった部屋の中でお菓子片手に今日の仕事を片付けていく…
数時間後、ふと気付くと常備中のお菓子が底を尽きていた。折角ちょっと冷静になり仕事の進み具合が良くなっていたのに、台無しにされた気がしてまたイラッとしてくる…確か自室に備蓄があったはずなので取りに行こうと椅子から立ち上がろうとしたその時
セミナー室のドアが開きノアが帰ってきた。ああ当番の時間が終わったのねと思いながら、私はとりあえずおかえりと伝えておく
「…おかえり。」
「ユウカちゃん、先生と2人から聞きましたよ。」
「何のこと?」
「先生にお説教をしたと言っていましたが、先生から教えて下さった内容を考えると流石に言い過ぎだと思います。その上カップを投げてゴミ箱を蹴っ飛ばしたみたいですが…」
「は?先生が約束を破って無駄遣いしたのが悪いじゃない。」
「それだけじゃありません。シャーレの当番を終えてミレニアムに帰ってくるとアリスちゃんがベンチで泣いているのを見つけました。アリスちゃんから聞いた限り、ユウカちゃんがとても乱暴な言葉で話をちゃんと聞こうともせずにアリスちゃんを追い払ったと…」
「…うるさいわね、ゲーム開発部の予算増額の話はもう聞きたくないって言っただけでしょ。」
「更に先程コユキちゃんに会いました。あの子はユウカちゃんを心配する言葉をかけようとしたのに、突然暴言を理不尽に吐かれ、怖くなってセミナー室を逃げ出したと…」
「うるさいって言ってんのよッ!」
机を叩きつけながら立ち上がってまた声を荒げる。早くお菓子を取りに行かせなさいよ…!ノアのそういう融通効かないところ一番イラつく…!
「先生もアリスちゃんもコユキも、私にストレスかけようとするからでしょ!?今までどんだけ我慢してきたか、あんたなら知ってるはずなのになんで私を責めるの!?私だってこんな事言いたくないのに、どいつもこいつも言わせるような事ばっかり…!うんざりしてんのっ!!ノアまで私を追い詰めるの!?私をイラつかせない人ってどこにも居ないの!?何度も何度も言うけれど、みんな本当にいい加減にしてよっ!!!」
ミレニアム中に響くんじゃないか…ってくらいの怒声をノアに浴びせる。みんな嫌い。私を安心させてくれるのは、最早お菓子しかないんだから…さっさと取りに行かせなさいよ
「…ユウカちゃん。先生とアリスちゃんとコユキちゃんに謝ってください。」
「…はぁ?」
「いくらなんでもあんまりですよ。先生に関しては完全に非が無い…と言うわけでは無いかもしれませんが、だからって先生の謝罪を聞きもせず一方的に怒鳴り散らして物を壊して帰るのは悪いことです。そしてアリスちゃんとコユキちゃんにした事は完全に理不尽な行いだって、ユウカちゃんなら分かるでしょう?」
「………」
「アリスちゃんとコユキちゃんは部屋の前に居ます。私が必ず謝らせると2人に誓ったので。先生は別に構わないと言っていましたが、電話でさせると約束しました。」
「あんた…何勝手にそんな事…」
「ユウカちゃん!謝りなさいっ!」
「っ…!?」
「ユウカちゃんが謝るまで私は絶対許しません!貴女のストレスが溜まっているのは重々承知していますが、だからと言って許される行為ではありません!」
…あんなノアを見るのは初めてだった
あまりの勢いに気圧され、私はお菓子を欲する気持ちが抜けてしまう
「……分かった、わ。謝る。謝るから…アリスちゃんとコユキ、前に居るんでしょ?今謝るから…」
「アリスちゃん、コユキ、さっきは酷い事を言ってごめんなさい…言い訳なんか出来ないわよね。嫌いになったならそれでも構わないから…」
「ユウカ…確かにアリスはとても悲しかったですし怖かったです。けれどユウカの気持ちも分かります。いつも迷惑ばかりかけてごめんなさい。」
「わ、私も…その、やらかしたのにまたセミナーの一員にしてくれた事に感謝してますから!ご、ご迷惑をおかけしてばかりで…スミマセン…」
「…私が全部悪いというのに…ごめん。イライラしてたとはいえ、あんな言い方するのはおかしいわよね…」
「ちゃんと謝ってくれて良かったです。先生にも電話で謝罪して下さいね?」
「うん。この後かける。」
先生は案の定、謝る必要なんか無いよと電話越しに言ってくれた。申し訳なさと情けなさが私を襲う…これからは何とか他の人に当たらずストレスと付き合えるよう頑張ろうと心に誓い、ノアは微笑みかけながらコーヒーを淹れてくれた
しかし、その誓い程度でなんとかなると思っていたのは
とんだ計算違いだった
その翌週
暴言どころじゃない蛮行を犯し
私が砂糖中毒者と判明した日…
私の身体と心は
もう危険な砂糖により穢され
完全におかしくなっていて──
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